開発のきっかけ
きっかけは「これと同じものが作れないか」
食品業界の経験が少なかったこれまでの旭ダイヤ。正直、少し前までは特に注力する計画もない領域でした。ところが今、精米機に搭載するダイヤモンドロールの開発という成功体験を機に、その認識が大きく変わり始めています。
きっかけとなったのは2013年、精米機メーカーであるお客様からの問い合わせです。お客様先ではすでに、他社製のダイヤモンドロールを使った精米機を検討していました。ただ、ロールの品質に不満があり、旭ダイヤに相談が入ったのです。最初の依頼は「これと同じものが作れないか」。技術力にはそれなりの自負があった旭ダイヤとしては、このオーダーを問題なく遂行します。完成した製品は、既存のものと同様の性能を有することに加え、切れ味はより高くすることに成功しました。お客様としても満足をいただき、小さなプロジェクトは無事終了……と思いきや、これはまだまだ物語の序章にすぎなかったのです。
取り組み
色ムラと糠(ぬか)詰まりというW課題を連続解決
最初の納品について、すべてが完璧というわけにはいきませんでした。そのひとつが、性能ではなく、外観。製品の一部に色ムラや変色が見られたのです。性能として問題はないものの、食品業界ユーザーにとっては不安の材料となりかねません。製造担当者のほとんどが、日頃は工業用製品ばかりを扱っていたのです。全員で品質への意識改革を行い、製造工程を一から見直すことで、少しずつ完成度を高めていくことで解決をはかりました。
その後、突如としてお客様から大幅な増産依頼が。対応には品質の安定性をより高める必要があったことから「旭ダイヤで台金(だいがね)からすべて製作させてほしい」との提案を伝えました。台金とは、ダイヤモンド砥粒を電着させるベース部分のこと。それまではお客様から支給いただいたものを使用していたのですが、より高い品質を求めるには、台金からの製作が最善であると考えたのです。この提案は無事、快諾を得ました。協力会社の選定を含め多少時間はかかりましたが、最終的には製品の美しい仕上がりと、高い供給能力を同時に実現することができました。
安心したのも束の間、ほどなくしてお客様より次なる要望が入ります。精米機で米を削って出る糠(ぬか)が、ダイヤモンド砥粒の間に挟まると、目詰まりして切れ味が落ち、精米速度が下がるという問題が指摘されたのです。この課題に対しては、他の製品で使用している特殊電着技術を用いて、糠の詰まりを最小限にする仕様をめざすことで解決をはかりました。何度も試行錯誤を重ね、無事お客様に満足いただける品質を達成。見た目、性能ともに既存品を大きく上回ることに成功したのです。
開発の成果
酒造メーカーの事業に変革をもたらす
一般的な精米機には砥石が使用されていますが、これをダイヤモンドロールにする大きなメリットとしては、米への負担軽減が挙げられます。ダイヤモンドは砥石よりも熱伝導率が高いため、米から熱をうまく逃すことができ、結果として砕米という米の割れを防ぐことにつながり、高品質な酒造精米が可能になったのです。
構造の違いにより軽量化できることから、電力消費量が削減されることもユーザーメリットのひとつです。メンテナンス時の作業性も向上しますが、そもそも耐久性が高いためメンテナンス頻度は減り、長期的な面での恩恵も享受できます。また砥石の場合は、使用済みになると廃棄物として処分する必要があります。ところが、ダイヤモンド砥粒は再度電着すれば台金をそのまま利用できるため、環境負荷の低減にも貢献するのです。
旭ダイヤのダイヤモンドロールを搭載した精米機を導入したある酒造メーカーでは、砕米の発生量が従来の3分の1に激減し、消費電力量は3割以上削減。何より、その精米品質の高さが周囲に漏れ伝わり、なんと近隣地域の競合他社の精米業務を受託するまでになりました。旭ダイヤの製品が、いち酒造メーカーのビジネスに小さくない変革をもたらしたとも言えるでしょう。

世界制覇も夢ではない

お客様先では、以前より小さな醸造所をターゲットに、小型の精米機の販売を始めています。そこに旭ダイヤの小型ダイヤモンドロールも採用いただいており、つい先日も納品しました。お客様は、かねてよりひと回り大型の精米機の販売も視野に入れているそうで、もちろん私たちとしても、そこに搭載するダイヤモンドロールを提供することで、協力を続けていく所存です。
このプロジェクトで培った精米の技術は、米だけのために使われるのはもったいないと考えています。小麦やトウモロコシなど、さまざまな穀物にも応用可能である技術だからです。稲作が盛んなアジア地区はもちろん、穀物がある国や地域、つまり全世界での展開も、決して夢ではありません。
少し前までは、食品業界をどこか遠い存在のように認識していた旭ダイヤ。今となっては、世界への進出、いや、世界制覇を本気で考える業界へと変わってきました。「食品業界に旭ダイヤの技術あり」という認識が世界中に広まる日は、案外すぐそこまで来ているのかもしれません。